オススメおとなのTsugi旅三次
山陽と山陰を結ぶ物と人の集積地として発展した三次市。広島県内でも有数の古い歴史を持つ町の、ディープな魅力を「もののけ」と「鵜飼」をキーワードにご案内。
なぜ三次はもののけの町なのか
三次市が「もののけの町」として知られているのは、なぜだろうか。それはこの地が、江戸時代中期に実在した稲生平太郎を主人公とした妖怪物語《稲生物怪録》の舞台として日本中に知られた〝もののけの聖地〟だったからに他ならない。
そうした縁から物語を研究する湯本豪一氏がコレクションを寄贈し、「湯本豪一記念日本妖怪博物館(三次もののけミュージアム)」が誕生。近年再び「もののけの町」としてざわめき始めた。
多彩なもののけたちに目を奪われがちだが、日本随一の妖怪研究家の歴史的資料として着目すると、その量、種類、質の高さに圧倒される。今にも抜け出てきそうな精緻で美しい美術品もあるが、「湯本先生はどちらかというと、庶民に親しまれた大衆品や面白い妖怪たちが大好きなんですよ」と、植田館長が教えてくれた。
そんな妖怪たちは、今や世界で注目される日本文化に。同館は「YOKAI」研究・収蔵において世界一の専門博物館として、各国から多数の問い合わせを受けている。三次市は世界の〝もののけの聖地〟になったのだ。
妖怪の絵巻物として世界的に知られる「百鬼夜行」。レプリカを用いず本物の所蔵品を展示する同館では、肉筆の生々しさが妖怪をいきいきと浮かび上がらせる。定期的に絵巻物を開く場所を変えるので、訪れる度に異なる妖怪と出会えるかも。
なぜ三次の鵜飼はすごいのか
三次市の夏の風物詩として知られる「鵜飼」。かつては全国百箇所以上で行われていた伝統漁法も、継承されているのは11箇所のみ。「中でも三次の鵜飼は独自の伝統を守り続けており、これを後世に残さねばと心を動かされました」と、32年前に鵜匠となった日坂さん。
三次鵜飼の特徴は、まず舟。〝カンコ舟〟と呼ばれる細い舟に、鵜匠と長い竹竿で舟を操るか じ こ舵子の二人だけが乗り込む。また並走する遊覧船にも動力を用いないのは全国でも稀有。静かな川面に響く水音、鵜舟と遊覧船の船頭の息の合った呼吸、それらを間近に感じる臨場感が最大の魅力だ。
次に、国内最長の7mにも及ぶ、鵜をつなぐた な わ手縄。深い川底まで鵜たちが潜れるようにしたものだが、操るには高い技術を要する。他県の鵜匠からは「千手観音」と呼ばれる匠の技だ。
道具や技術もさることながら、「何より大事なのは鵜との信頼関係」と日坂さん。非 常に賢い水鳥である鵜と鵜匠の絆が魅せる、ここにしかない伝統文化。見ておかないともったいない。
鵜飼漁を生業としていた漁師たちが、早く遠くまで動けるように、細く軽く進化した約9mのカンコ舟。揺れやすい舟の上で立ち続けながら鵜を操る鵜匠の技も、阿吽の呼吸で長い竹竿一本で操舵する舵子の技も、ため息が出るほど見事。
舳先のリーダーから順に舟に止まるという、チームプレーもこなす賢い鵜。「香魚」と呼ばれる香りの良い鮎を、先端がカギ型になったクチバシで瞬時に締めるため、鵜が獲る鮎は鮮度の高い高級品として珍重された。
三次の魅力を知り尽くす
「食」においても三次の文化と歴史を守る人がいる。和食店「むらたけ総本家」を継いだ村竹美保さんだ。
鵜飼による鮎漁が盛んだった頃の「香魚」の美味を伝えたいと、鵜飼シーズンには新鮮な鮎料理を提供。また、県北の海産物として重宝された「ワニ(鮫)料理」も通年メニューに加える。
「食材調達は正直言って大変。でも無くしてしまったら、三次の食文化が絶えてしまう。勝ために地域の思い、父の思いを背負って続けているんですよ」と笑った。